このバンドについて

The Gimletという3ピースバンドが誕生してから既に10年以上の時がたっている。

まず、思うのが10年という年月は恐ろしく早いということだ。10年以上、周りのいろいろな人のおかげで、このバンドはあれやこれやとやってくることができた。そして何時の間にか今日になっている。それは、おそらく、The Gimletが今日までの十数年、無名なりに密度の濃い活動をしてきたから、という理由もあるのではないかと個人的には思っている。

 

ライブ、曲作り、スタジオ練習、たまに音源制作、たまに企画、たまにワンマン、思い返すとそれぞれで印象深いエピソードなんかがいくつかあって、最近は夜中に一人懐かしがったり、嬉しくなったり、思い出し笑いしてみたり、鼻くそほじったり、悔しがったり、イラついたり、悲しんだり、鼻くそほじったりしている。

 

とはいえ記憶をたどっていくと、実はこの3ピース爆音バンドが結成された当初のことは、自分の記憶が薄れてきているのか、老化が著しく進行しているせいか、よく覚えていない。何年の何月に結成したとか、初ライブが何月何日だったとか、夏だったか冬だったか、晴れてたか曇ってたか、夕飯は肉だったか魚だったか、3ピースバンドと言いつつ、もしかしたらメンバーも本当は5人くらいいたのではないかと思ってみたりしている。

そのため、まぁ確実に10年以上は活動しているが、正確に「じゃあ、今結成十何年目なの?」と問われると「正直よくわからん」と言わざるを得ない。だって、わからないんだもの。とはいえ、思い出せないのには実は理由があるのだが、それはまた別の機会に綴りたいと思う。いろいろあったし、変わってきたということだ。

 

しかし、この十数年の中で変わったこともあれば、変わらなかったこともある。それは楽曲の方向性、演奏スタイル、サウンド、ライブに対する思い、髭の濃さとかさまざま部分がそうであるのだが、今回取り上げたいのは一番変わらなかったもの、そう、バンド名である。

 

では本題に入ろう。

The Gimlet。恐ろしくシンプルでとても覚えやすいバンド名だ。恐らく日本中、いや、世界中探せば同名のバンドが腐るほどいて各々の活動エリアで日夜蠢いていることと思う。

その蠢いている奴らの1つが我らがThe Gimletということになるのだが、ライブを見に来てくれた皆様やCDを購入いただいた皆様には、ありがたいことにこのバンド名に関しては違和感なく受け入れられている(ような気がする)。

一方で、先ほど上記で「鼻くそほじったり、悔しがったり」と述べたが、この「鼻くそほじったり」ではない方の「悔しがったり」の部分は、実はこのバンド名と関係する事柄なのである。

 

少々オカルトじみた話になるが、実は、このバンド名、メンバーの誰がこのバンド名に決めたのか、未だに不明なのである。

 

確かにバンド名等を決める打ち合わせは、結成当初話し合った記憶はある。当時いつもバンド練習で使用している地下スタジオの地上一階にあったBARで、自分好みのアメリカンな内装の素敵なBARだった。その日の打ち合わせの時も、自分は、ジェームズ・カーンやスティーブ・マックイーン気取りで、慣れない酒をカッコつけて無理して飲みながら、バンド名を考えていた。

 

その日、自分は燃えていた。なぜなら、昔から自分には、バンドを組むとしたら、えげつないくらいかっこいいバンド名をつけたいという夢がったから。

その上でどんなバンド名にするか。もちろん他のメンバーからの案も出るだろう。しかし、どうしても自分の案を通したい。これは言い方を変えるとセンスの戦争である。自分の頭の中にある「かっこいい言葉辞典(横文字編)」をひっくり返し、「歴代かっこいい言葉アワード最優秀賞受賞者(横文字部門)」を引っ張り出し、メンバー全員(といっても他は2人だが、うち一人は「なんでもいいよ~」といったようなテンションだった。気がする)を呻らせ、感動させ、脱帽させるような言葉を引き出し、組み立て、こねくり回し、提案しなければならない。

 

自分は考えた。なんかもうすごい考えた。だったら数日前から考えとけよという話だが、それはさておき、その場で、アドリブで、すごくいろいろすごく考えた。そして、悲しいくらいなんにも思い浮かばなかった。

 

その間メンバー間では「ジェット・ウルフ」とか「セックス・ライフルズ」とかふざけた言葉が飛び交い時間が流れた。

頭の中の「かっこいい言葉辞典(横文字編)」はこの世のものとは思えないくらい綺麗な白紙、「歴代かっこいい言葉アワード最優秀賞受賞者(横文字部門)」は、「そもそもそんなのいたっけ?」レベルの廃れ具合。

 

かっこいい言葉が出てこなかったのは、きっと、慣れない酒をジェームズ・カーンを真似て飲んで酔いが回っていたせいもあったのだろう。というかジェームズ・カーンはジェームズ・カーンだから酒を飲んでもジェームズ・カーンでいられるのであって、ジェームズ・カーンを真似た自分はどんだけ酒をかっこつけて飲んでもジェームズ・カーンを真似た自分にしかなれないのだからそれは仕方ない、というかそれはこの話とは関係ないので戻すが、その日は調子が悪くて、何飲んだんだっけ? と思いテーブルのメニューを眺めたところ「ギムレット」と「セックス・オン・ザ・ビーチ」というカクテル名が目に入った。あとステーキ・ライスも。あれは美味かった。

 

自分はもう半ば諦め気味に、冗談交えてメニュー表の「ギムレット」と「セックス・オン・ザ・ビーチ」を交互に指差し、「このどっちかでいいんでない?」と言い、メンバーの反応を待った。そしたら二人とも「まぁ、いいんでない?」といったような反応。「いやセックス・オン・ザ・ビーチはないだろ」と、自分で提案したにも関わらず内心思った。だってセックスをオン・ザ・ビーチでするのですから。それはさておき、もう一方のギムレットである。このギムレットであるが、どうやら工具の「錐」を意味する言葉らしい。

 

その段になってはじめて自分の頭の中に「ちょっといいかも」という思いが生じた。錐という意味から、「鋭い錐の先端で今の音楽シーンをキリキリして風穴空けるぜ的な、それで、そんな感じで俺たちはロックをやるっていうような気概を持って、それで、多分わかんないけど、そういう意味を込めて、なんかThe Gimletっていうバンド名にしたらいいかも多分」というようなイメージが浮かんだからだ。長いイメージだ。

酒というのは人をいい加減にしてしまうものだなと感じた。えげつないくらいかっこいいバンド名にする計画は、えげつないくらいグダグダなうちに頓挫していたわけだ。

しかし、自分の記憶では、この日のうちに「バンド名をギムレットあるいはセックス・オン・ザ・ビーチにする」議題は決着とならず、先送りになっていたような気がする。

 

その後は、スタジオだ、曲作りだ、ブッキングだ、ライブだ、鼻くそほじりだ、でやることが多く、あらためてバンド名について議論を交わす場を設けていなかった。が、バンド名はThe Gimletに決まっていた。誰がGOを出したのかは覚えていない。仮で決めておいて、そのままになっていたため、いつのまにか決定していたのだろう。メンバーの誰もこのことには触れなかった。あるいは本当に4人目か5人目の見えないメンバーがいてそいつが決定したのかもしれない。だとするとそいつはいつ脱退したのだろう。

 

ともかく何が言いたいのかというと、The Gimletというバンド名で十数年活動してきているが、自分はこのバンド名にまだ納得していないところがある。なぜならバンド名をえげつないくらいかっこいいバンド名にしたかったがそれが叶わなかったからだ。えげつないくらいかっこいいバンド名ではないままここまで来てしまった。

なので、実現はかなり難しいが、機会があればバンド名をいつか変えたいと思っている。えげつないくらいかっこいいバンド名に。夢さえあれば生きれるさ。

 

余談だが、小説家レイモンド・チャンドラーの作品「ロング・グッドバイ」には「ギムレットには早すぎる」という名言があるようだ。

 

確かに、仮に新しいバンド名をつける機会が設けられたとして、1つ懸念事項がある。

果たしてその時、自分の頭の中の「かっこいい言葉辞典(横文字編)」と「歴代かっこいい言葉アワード最優秀賞受賞者(横文字部門)」はちゃんと機能するのだろうか。いざ改名の場面になって、また何も思い浮かばないということがないように、今のうちからえげつないくらいかっこいいバンド名を考えておかなければならない。

ということを考慮すると確かに、改名するかどうかの判断は、今の「ギムレットには早すぎる」かもしれない。

 

今後、The Gimletが、「鋭い錐の先端で今の音楽シーンをキリキリして風穴空けるぜ」的な感じなったら、また考えることとしよう。

 

Makoto